動詞のバリエーション

  • 語形変化もさることながら、ロシア語の動詞は、様々なニュアンスを持った動詞があり、その数がとても多い
  • 同じ語幹を持った動詞に接頭辞が付くことでニュアンスが変わる現象はその一つ
  • 「ニュアンス」の中でも特に多くの動作に広く認められるのが「不完了・完了」のニュアンスであり、「定方向・不定方向」もその一つだろう
  • また、ロシア語はキリル文字による表音記載されるため、接辞+語幹(+語尾変化)の際に、母音が変わったり・抜けたり・入ったりすることがあり、辞書引き上の苦労が多い
  • さらに、表音記載とは言うものの、発音母音はアクセントの移動とともに、聞こえ方・発音の仕方が大幅に変わるので、キリル文字表記上は共通語幹であることがわかっても、今度は聞き取りの際・発声の際に同一語根と理解するのが難しいものがある
  • とはいえ、日本語も「xxを買いに行こう」と言う文に出会ったときに、「買う」「行く」という見出し語で辞書を引けるようになるには、それなりの習熟が必要だし、「xxを買いかけたけど、買うのはやめにしようかな」となると、「買いかけた」が「買う+かける」という『複合動詞』であって、「かける」が「動作を開始したが、最後まで行わずに途中でやめる」というニュアンスを加える、と理解したり、「やめ」が「やめる」という動詞の名詞化であると理解したり、「しよう」が「する」の変化形であるとわからないといけないことなどを思い出せば、ロシア語が日本語より大変だとまでは言いにくそうだ
  • ということで、接頭辞が付いたりしてニュアンスが変わる動詞については
  • 1.大雑把な意味は同じと思ってしまう、という大胆なとらえ方をし
  • 2.ニュアンスを感じ取れるようになる、ということが、語学上の進歩だから、わかれば「喜び」だし、わからなくても「喜びの余地が残っている」とポジティブに考える
  • ことにすれば、よいかもしれない
  • 以下に、ロシア語動詞の接頭辞によるバリエーションを、日本語の複合動詞との関係で説明した文書があり、参考になる

日本語複合動詞における後項動詞とロシア語動詞接頭辞との対応関係について―語彙的複合動詞を構成する「~こむ」「~でる」「~だす」「~たつ」「~たてる」の場合―( Dissertation_全文 )

  • これを読むと、接頭辞が付加するニュアンスについて理解しきる(この「理解」+「しきる」が複合動詞であり、この「しきる」がニュアンスであって、このニュアンスをロシア語動詞はどのように表すのか、ということを問題にしている)ことは、完全に文法として説明されるようなことではない、ということが解り、ほっとする
  • これをかいつまんで読んでみる(前半がレビューで後半が文書筆者の研究なので、前半を)
  • ロシア語の接頭辞(分類の仕方に流儀の違いがあるようだが)
    • 全32種類(その異形態を数え上げると73種類)ある
    • そのうち動詞接頭辞は18種類とも28種類とも言われる
    • また、接頭辞がつくことで、語幹に接尾辞を付加する場合もある
    • 複数の接頭辞が付く例もある
  • 動詞と接頭辞との関係
    • すべての動詞に接頭辞が付くわけではなく、1個の動詞にすべての接頭辞が付くわけでもない
    • 基本的な動作を表す動詞ほど、多くの接頭辞を付けるだろうことは想像しやすい。例えば、食べるестьには、14接頭辞が付くとされる
  • 動詞接頭辞の由来
    • 前置詞を語源とする
  • 動詞接頭辞の機能と意味
    • 意味のニュアンスの付加
    • 文法的機能の付加(アスペクト(不完了体・完了体)):『文法的接頭辞』。ただし、アスペクトは『文法』の一種とみなしうる動詞のニュアンスと解することにするならば、文法的機能の付加もニュアンスの付加と考えてよいのかもしれない
    • その他。ニュアンス・文法的機能が、現在では埋没してしまったように見える接頭辞もある
  • 個々の接頭辞がもたらすニュアンス
    • 1つの接頭辞がもたらすニュアンスは色々ある。たとえば、за,- пере-は10種類の意味があるという
    • これは、動詞接頭辞の由来が前置詞であることを思い返せば、当然か。。。前置詞もいろいろな用途に使いまわされる
  • ニュアンスのパターン
    • ニュアンスのパターン分けが試みられている(整理しきれているわけではないようだ)
    • 動作様態と分類されるニュアンスは10種類とも20種類とも説明される
    • 5つの代表的動作様態
      • 始動、終始、限定、継続・限定、減縮
      • 始動は、さらに「開始」と「起動」とに2分される。開始は「xxし始めて、それが(ずっとではないが)ある短時間、継続する」ことを指し、起動は「xxし始めて、ごく短時間でその動作が終了する」ことに相当する。『泣き出した・泣き始めた』は開始、『(ぶつかって、思わず)叫んだ』は起動の例。そのほか「始動」と説明されるニュアンスもある。動作がスタートすること自体に焦点が当たっているような場合(のようだ)。多数の接頭辞が始動のニュアンスを付与する
      • 終始の接頭辞は-отのみ。動作の終了、動作が存在する時間に制限が認められること、と解するようだ。『痛みが消えた(消えてなくなった)』『愛が覚める(愛していたがそれが弱まって愛していない状態になる)』『歌手が歌い終えた(のでトイレに立った)』のような感じ
      • 限定は「時間的に制限された動作実現」と説明される。その時間制限が比較的短く、かといって正確な時間制限ではない、というニュアンスもある。『ちょっと走る』『ひと泳ぎする』
      • 継続・限定は「時間制約」と関係するが、『限定』よりも時間が長い。『(しばらく)病気をして(寝付く)』『(夜更けまで)読書する』『冬眠する』『(一晩)当直する』
      • 減縮は、時間に関する制約ではなく、動作の質に関する制約に相当。『軽く酔う』『小突く』『小やみになる』
  • 日本語の複合動詞は、個々の動詞の意味を合わせて意味にニュアンスを発生させる。ロシア語で日本語の複合動詞のニュアンスを説明するときには、接頭辞を付けた動詞を使ってニュアンスを説明することがあるそうだ。これは、ニュアンスのような微妙な違いを表現するには、母語話者の単語選択の精度が要求されると考えられるから、接頭辞付き動詞のニュアンスを学ぶ方法として優れた方法と思われる
  • 日本語の複合動詞も分類や、付加ニュアンスについて母語話者として意識的に評価し直すことで、動作のニュアンスについて鋭敏になることができるから、その鋭敏さを持って、ロシア語の接頭辞+動詞の意味説明を学ぶことが適切であるし、そのようなニュアンスを排除した紛れの少ない表現を目指すのであれば、接頭辞+動詞の違いについては深入りしなくてもよいことになるように思われる
  • 特に、日本語の複合動詞のうち、前半動詞が主たる動作を表し後半動詞が意味を添えているものに関する外国人向けの説明としては、後半動詞が「日本語単語における接尾辞」として開設されることからも、ある種の接頭辞+動詞のニュアンスが複合動詞的に理解することと考えることは悪くなさそう