時空間と現在と自分と完了・移動・再帰

時空間、グラフ理論、ベクトルで動詞を分類

  • ロシア語の動詞には、他の言語にない変わった分類がある
  • 時空間
    • 時間
        • 完了体と不完了体(前者は動作・行為の帰結状態に興味があり、後者は動作・行為そのものに興味がある)
    • 空間
      • 移動動詞の定向・不定向(移動動詞は空間中の変化に関する情報を提供する。定向動詞ではその空間移動の向きや終着点が定まっているのに対して、不定向動詞では、空間移動することだけの情報があり、向きや主着点には頓着しない(あえて頓着するなら、別の単語を加えて表現する)
  • 完了体・不完了体と移動動詞の定・不定向はまったく異なる分類概念のようにも見えるが、時間と空間とを同列に考えれば、動作そのものに興味があるのか、動作の時空間帰結に興味があるのかという観点から、両者は似たような分類概念であるとも考えられる
  • 時制と話者
    • 動詞における時制の概念とは、動詞が表す動作・行為の生起時刻と、現時刻との相対関係のことである。現時刻に対して過去に動作・行為が生起するとき、それは過去形で表現される。同様に未来の事象は未来形。現時刻においてまさに行われている動作・行為は現在形。
    • 現時刻を話者中心にとらえ直すと、それは、「話者(の意識)が存在している時間軸上の点」である
  • 移動動詞~空間に興味のある動詞と話者
    • 時制が話者の存在時刻を基準としたルールであった
    • 時間と空間とのアナロジーを持ち込めば、空間における「現時刻=現地点」とは、「話者(の意識)が存在している空間上の点」のことである
    • 空間移動に関して、「現地点」を基準にした相対空間情報を表現し分ける「時制の空間版」に相当する文法概念がロシア語にあるとの記述にはまだお目にかかっていないが、この視点で動詞を用いた表現を今後、見ていくことにする
  • 話者・現時刻・現地点と再帰
    • 再帰動詞とは、他動詞であってその目的語が主語である場合に特化した動詞のことである
    • 時間・空間において、「現時刻」「現地点」が意味を持ったが、それは、「話者(の意識)が存在している時間軸上の点」「話者(の意識)が存在している空間上の点」を考慮することだった
    • 動詞が表す「動作・行為が表現する抽象空間」を考えたとき、「行為者(の意識)が存在している『動作・行為の抽象空間』上の点」は、考慮の対象となるだろう
    • 再帰動詞は、行為者と被行為者とが一致する場合に相当し、グラフで言えば「(自己)ループの辺」に相当する
    • 再帰動詞は、行為者から、被行為者とを結ぶベクトルが「非ループ辺」である場合に相当する
  • 他動詞と自動詞
    • 他動詞を再帰動詞・非再帰動詞に分けると、その違いは、行為者と被行為者との結ぶベクトルの性質で分けられた
    • この考え方で行くと、自動詞とは、そもそもベクトルではない何か(ノード、だろうか・・・)として表現される動詞のことなのかもしれない
  • 以上、時空間、行為者・被行為者の作る空間における、頂点・辺・有向辺というような概念で動詞を説明してみた

現在と不完了と副動詞・形動詞

  • 完了体動詞は現在形がない。なぜなら、完了体動詞は動作・行為の終了時点に興味があり、その時点は「今」ではなく、過去の時刻か、または、未来の時刻のどちらかだから
  • その影響で、形動詞の「現在能動・現在被動」はない
  • その影響で、副動詞の「~しながら」(副動詞現在・副動詞不完了)はない。あるのは、「~し終えて」に相当する副動詞過去・副動詞完了である
  • 形動詞過去は、「受身表現」に使われる。このため、形動詞過去被動形は形動詞の中でも頻用される
  • また、それに応じて、形動詞短語尾形としても使われる。逆に、短語尾形の形動詞は過去被動形のみにある
  • さらに、この受身にも使われる「形動詞被動形」は完了体動詞でよく使われ、実際、形動詞短語尾(被動形過去のみ)は完了体動詞にあるも、不完了体動詞にはない(らしい)
  • したがって、形動詞短語尾(被動形過去)を用いる受身表現は完了体動詞では可能だが、不完了体動詞ではできなくなる…。その代わりся動詞で不完了体動詞の受身は表現するのが基本らしい

接頭辞と時空間分類

  • 動詞に接頭辞がついて性質が付加されたりする
  • その中で、特に、完了・不完了、定向・不定向の変換が接頭辞の付与でコントロールされるので、その様子を確認しておく
  • 動詞はすべて時間軸上の概念である
    • 動作・行為を表現するとき、その結果に興味があることは多いので、時間軸で考えたとき、動詞は以下の2種類に分けられる
      • 結果に興味がある動詞(T)
      • 結果に興味がない動詞(t)
  • 動詞の中には空間上の情報を持つものとそうでないものとがある
    • 空間上の情報を持たない動詞(s)
    • 空間上の情報を持つ動詞(S)
      • さらに、動作・行為の空間上の帰結に興味がある動詞(S.K)
      • 空間上の帰結に興味がない動詞(S.k)
  • 時空間の分類はデカルト積的に組み合わせて網羅することができるので、時空間でのタイプは以下の6通り
    • (1) T.s
    • (2) T.S.K
    • (3) T.S.k
    • (4) t.s
    • (5) t.S.K
    • (6) t.S.k
    • (4) t.s に接頭辞を付けて、(1) T.s にすることがある。これは不完了体の完了体化
    • (1) T.s に接尾辞 -ватьをつけて(4)にすることがある。これは完了体の不完了体化
    • (6) t.S.kは、空間軸に情報がある動作・行為だが、時間軸・空間軸について頓着しない、単なる動作・行為に興味あるだけの動詞。不完了体・移動・不定向の動詞と言われる
    • (6) t.S.k に接頭辞をつけると、空間的な帰結が定まり、(5)t.S.Kになる。時間的には不完了体のまま
    • (5) t.S.K に接頭辞をつけると、すでに空間的な帰結は定まっているので、まだ定まっていない時間的な帰結が加わり、(2) T.S.Kになる
    • いわゆる『移動動詞』と呼ばれるものは、(5) t.S.K と (6) t.S.k との2つとされており、(5)は移動・定向動詞、(6) は移動・不定向動詞と言われる。『移動動詞』はすべて不完了体であることになっている。
    • この説明で出てこないのが (3) T.S.k である。これは空間的に不定向だが、完了体である場合を表す分類である。しかし、空間的に動作がどのように終わるかが定かでないのに、その行為の帰結を云々することは難しいという意味で、出てきていないのであろう。動詞は本質的に時間軸を空間軸よりも優先する概念であることがこの理由と言えるだろうか
    • まとめると
      • 完了体動詞は、非移動動詞と移動動詞とがあって、(1) T.s , (2) T.S.K の2つ
      • 移動動詞は基本的には不完了体であって、(5) t.S.K , (6) t.S.k の2つ
      • 接頭辞の付与により
        • (1) T.s 完了体・非移動の動詞---> 動作・行為の内容を接頭辞が修飾した、新たな完了体・非移動の動詞 (1)' T.s '
        • (2) T.S.K 完了体・移動・定向の動詞---> 動作・行為の内容を接頭辞が修飾した、新たな完了体・移動・定向の動詞 (2)' T.S.K '
        • (3) T.S.k なし
        • (4) t.s 不完了体・非移動の動詞---> 完了体・非移動の動詞 (1) T.s
        • (5) t.S.K 不完了体・移動・定向の動詞---> 完了体・移動・定向の動詞 (2) T.S.K
        • (6) t.S.k 不完了体・移動・不定向の動詞---> 不完了体・移動・定向の動詞 (5) t.S.K